Wの記録

Wこと天羽の趣味の記録。主に山と遺跡史跡。信州飲食店情報へはリンクの食べログIDから、サークルサイトはツイッター@Wistoria_Tからアクセスください。     (2019年9月Yahooブログより移転。それ以前の記事は画像がズレて読みにくいですが、とても調整しきれないので。。。)

神楽・早池峰神楽(岩手県花巻市:旧大迫町)

岩手県には数多の神楽が伝承されていますが、一番有名なのは早池峰神楽でしょう。
山伏神楽の一種で、メインは男舞と呼ばれる「岳(たけ)神楽」。
岩手第二の高さを誇る修験道の山・早池峰山。そこに祀られる早池峰神社に奉納される神楽で、旧大迫町に伝承されています。
国指定重要無形民俗文化財
今年9月には、ユネスコ無形文化遺産に指定されるようです。

これを見るには、月1回(12~1月は無し)大迫の早池峰ホールで開催される「神楽の日」へ。
東京の能楽堂などでも、たまに演じられているようです。

しかし、やっぱり神楽は、神サマに奉納する本物を観たい!!ですよね?
そこで岩手出身&在住のS嬢と一緒に、早池峰神社例大祭に行ってきました!

イメージ 1
早池峰の神は早池峰山山頂に祀られていますが、麓の岳集落に里宮(1300年に早池峰大権現として創建)アリ。山頂奥宮は額に金星のある白鹿の出現により、大同2年(808)に創建。祭神は早瀬と禊の神・瀬織津比売神。この神、「アマテラスの荒魂」とも言われる為か、由来する演目の奉納が多いようです。
 
早池峰神社への神楽奉納は年数回。
中でも一番大きく、大償神社に奉納される「大償(おおつぐない)神楽」も同時に舞われるのが例大祭の前後、7/31(宵宮)と8/1(大祭当日)です。
 
(※神社へのアクセスについては「山の話」の「北上山地早池峰山 ~準備編~」をご覧下さい)
 
早池峰神社(岳集落)

今年の7/31は金曜日。観光課によれば…
 「大体17:30くらいから場所取りが始まるが、土日にあたるともっと早く行かないと大変」
 「最終まで観ると23時位になる」「この時間になると公共の移動手段はない」
 「ベンチなどは無いので、シートを持参した方が良い」
 「最初が岳神楽だと人気が高いが、演目の順番は正式には発表されない」
 「周囲の宿坊は毎年泊まった人が翌年の予約をしていくよう。今からはとても取れない」

とにかく情報が少なくて、とにかく行ってみるしかない、という模様です。
東京公演なんかしないで、観光課はもっと地元に人を呼べるように情報をきちんと発信すればいいのに……その方が地元にもお金を落とせるし、いい事だと思うんですけどねえ?

とりあえずシートと食べ物と、折畳みの椅子も持って、17:30に行ってみました。
すると……

イメージ 2
うわ―――っ;;
 
もう満っ杯ですっ!
 
すごい混み具合…
 
って言うか
 
 
――――狭っっ!!;

境内というより「参道の横」。「ベンチなどが無い」どころではありません。
土地がない。
しかも神楽殿前には杉や燈籠、看板や幟などがあって、舞台がよく見える場所が限られています。
こ……これじゃあ大勢来ても、見られないや;

それでも何とか見える場所を確保。椅子が無かったら、前の人の背中と後頭部を見つめるハメになってました。持ってきて良かった……
境内下にはタコ焼や焼き魚・焼ソバ、お酒などの出店も出ています。
神楽の為のシャトルバスなどは無いので、皆さん神社前の宿坊に泊まっているか、自家用車で来ているよう。そのせいか、お酒を楽しんでいる人はあまり居なかったです。
それに寒くて!!(H550m)
19時半位からは登山用のゴアテを着ました。とてもビールなんかやってられません。
しかし観客のほとんどは半袖で、扇子で扇いでいる人も……北の人は強い;;

S嬢とは20時頃に境内で待ち合わせだったのですが、この神社では例えauでも圏外とのこと。
ソフトなんて言うに及ばず。そしてこの人込み。会えるか会えないかは運まかせです。

イメージ 318:00。
予定通りの時間に始まりました。
最初は「岳神楽」です。
 
 
 
  幕の紋は「向かい鶴」→
  南部藩の紋だそうです。

早池峰神楽は「式舞(6番)→神舞・荒舞・武士舞・女舞→権現舞」という順番で演じられ、狂言もあるとか。
長丁場の場合は、「式舞」を昼にやったら夜は「裏式舞」(これも6番)を演じるらしく、「裏式舞」は「式舞」の面白バージョンという感じ。
「女舞」や「武士舞」などはやはりお能と似ている荒筋ですが、出雲神楽のような芝居じみた雰囲気は無く、どれも舞がメイン。「荒舞」に至ってはセリフが無く、ひたすら踊り舞いきります。キメが上手く張れた時など、観客からは掛け声や口笛の嵐。「営業目的以外の撮影OK」なので、それはもう、フラッシュも嵐のように!!

出店で購入した『早池峰神楽』(郷土文化研究会編:ISBN4-906403-80-8)によると「早池峰カメラクラブ」というのがあるそうで、多分前列に陣取っているのはその面々かと……

イメージ 4
演目は式舞6番(「鶏の舞」→「翁の舞」→「三番叟の舞」→「八幡の舞」→「山の神の舞」)に始まり、「笹割りの舞」(荒舞)→「諷誦の舞」(荒舞)→「天女の舞」(女舞)→「五穀の舞」(神舞)→「権現舞」の9種。
どれも15~25分くらいです。
 
←「鶏舞」。どの演目でも、鳥兜の上には全て鶏が乗っています。

早池峰神楽で驚いたのは、演目によっては後半、面や鳥兜を取ってしまうこと。
これは「クズシ」と言う定型で、神の証である面を取った=人間として舞うということなのだとか。ここからは太刀や弓矢を採り物にした、激しい喜びの舞に変わります。舞う人数が脈絡なく増えたりも。武士舞や女舞には無い演出だそうです。
一番激しいのは「諷誦の舞」でしょうか。見せ場盛り沢山で、大賑わい。
全体的に装束も、東北ならではの色タスキをつけたり袖脱ぎ(ぬぎだれ)したりと賑やかなもの。
手には「くじ」という紙で作った指輪をつけていて、採り物を持たない手は印を結んでいます。

囃し方の3名(太鼓1・手平鐘2)は舞台上に出てくるけれど、愛する笛方は舞台の幕裏。
謡いも幕裏の人が謡っています。音響を使っているのでよく聞こえはするけれど、モロ土地言葉なので何を言っているのかはわかりませんでした;;

最後は必ず、「権現舞」で〆め。
神の権現である獅子頭の舞です。

21:05。「岳神楽」終了。次は「大償神楽」です。すると、半分位の人達が次々と帰り始めました。
あれれ?;;
やっぱり岳神楽が人気、なんですかねえ。結構空いてきたので、おかげでS嬢とも会えました。
 
ここでもっとよく見える場所へ移動――☆

イメージ 5
↑「大償神楽」の式舞・「鳥舞」。「岳神楽」とは演目名が微妙に異なります。

イメージ 6
そして明らかに囃しの調子も異なり、全体的に大人しめ。静かな雰囲気になりました。
 
幕の紋は菊と桐。由来は不明とのこと。

イメージ 7
演目は式舞(「鳥舞」→「三番叟」→「山神」)→「注縄切」(荒舞)→「天照五穀」(神舞)→「権現舞」と、少なめ。
 
 
←「天照五穀」。
 装束がステキでした。

どちらにしても、石鳥谷で観た舞台と大差ない番組です。
三輪神婚を扱った「苧環舞」(女舞)や八俣の大蛇を扱った「稲田姫」(裏式舞)、「曽我兄弟」(武士舞)や
道成寺」(女舞)などもあるのですが、狂言と同様、こういう舞台では滅多にやらないと見えます。
いかにも「早池峰らしい演目」「早池峰独特な演目」を優先してやっている模様。

演目の間にお花代の口上あり。
読めない漢字が出てくると口上が止まってしまい、困って照れながら「次がら読み仮名ふって下せ」
なんて言えば観客は大笑い。5千円位からのようです。
「岳神楽」の口上はコテコテの土地言葉でしたが、「大償神楽」の口上は何故か標準語系。
舞い終わった演者たちが、他の演目中に本殿に向かって一礼してから家へ帰る姿も見えます。

こんな感じで23:30、最後の権現舞が始まりました。が、ホテルの最終C/Iが24時……
途中で帰りました(--;)
権現サマ、ゴメンなさい!!

イメージ 8
さて、翌日の大祭。
 
「朝9時半位から神社拝殿内で神事が始まり、10時頃には神輿が出発する」とのこと(by観光課)。
この神輿隊列が、見モノなんです。
まず先頭に天狗(スサノヲ)や南部藩の扮装をした役の者が居て、隊列を率います。
その後ろから酒舟?→大獅子頭→神輿→囃し方と続いていき、間間に山伏や権現サマや幡持ちなどが入って、長い長い隊列でした。

←神輿出発待ちの見物客たち@拝殿前。この日は11時開始だったので、かなり待った人も居た模様。

というか、神楽殿をここに設置すればもっと観易いのに……

イメージ 9

隊列の中程の大獅子頭

権現舞獅子頭よりずっと大きくて、普段は摂社の祠に納められています。
 
神輿よりもこの獅子頭の方が
「依り代!」という感じ。

イメージ 10←4人掛かりでお運び

まさかコレで権現舞、しないよね…?

お留守中の祠↓ 開けっぱ。イメージ 11

イメージ 12
隊列は神楽殿より下の、妙泉寺跡にある建物の前で門打ち(子供の神舞&権現舞)をした後、集落内を巡回します。
 
←子供たちがクルクルと踊ります。組によっては、円になって踊ってました。その後ろで権現サマが、歯をカカッカカッと鳴らしてます。
 
 
 
依頼者は入口の小上がりに座って舞を受けていました。
最初に門打ちをする建物↓
イメージ 13
 
 
ほとんどの見物客はこの隊列についていくのですが、私は隊列が去った後に始まる、神楽殿での他の神社の神楽を観る為に残りました。
 
 
境内も静かになったので、きちんと参拝も…。

イメージ 14
←普段は拝殿内部に仕舞われている木造の狛犬も、この日だけはお外で参拝者をお迎え。
 
拝殿横ではお神酒の振る舞いをしていました。参拝していると、左の方から「呑んでいかんかね呑んでいかんかね」と声が。
何かの妖怪かと思った(笑)

イメージ 15
楽殿の観客は昨日より少なく、よく見える位置もまだあいています。この日は幸神社の神楽から始まりました。囃し調子も舞も、岳神楽に似ています。
 
おっと、演目の最中に隊列が戻ってきました。神楽殿の真横を抜けて拝殿へ戻ります。
しかし神楽、当然やめません。
隊列のお囃子も、まるでやめません。
もう不協和音の二重奏。
演者、頑張れ;

私たちは途中で帰りましたが、この後また「岳神楽」が始まり、16時位まで続くそうです。
初めての「観光神楽でない、ホントの神楽」。
思ったより格式ばっていなくて、楽しめました。
願わくばユネスコ認定の後、観光客を誘致する為とか言って境内の杉を切ったり神社を拡張したり、ホテルを建てたりしませんように……

イメージ 16
後日撮ってみた普段の境内。
正面は随神門、右手の建物が神楽殿です。

イメージ 17
祭り翌々日の神楽殿
 
早く来て場所取りができれば、あの正面段差に陣取れます。
 
舞台上のアレは、干してあるのか果てはしまい忘れか…